人質殺害

11月5日

アンジェロ 春山 勝美 神父
Fr.Angelo Haruyama Katsumi, OFM
haruyama@netvision.net.il

香田証生さん殺害を憤り、ご冥福を祈り、ご遺族にはお悔やみ申し上げます。

時差の関係で、日本の早朝のニュースは深夜の祈り前に伝わります。27日、人質事件発生、29日、誤認となったアジア系青年の死体発見、30日、香田証生さん殺害確認のニュースはNHK衛星テレビで知りました。

人質解放を祈っておりましたが、正直言って、今回はなぜか、誘拐犯の要求は通じそうにないので、脅迫通り、実行されるだろうなーと悪い予感がありました。残酷な結末となりました。

それで、このような悲惨な事件が二度と起きないようにと願い、エルサレムから報告させていただきます。

エルサレムは、現在、海外危険情報では、渡航延期地域です。数日前、ラマダン中のこの時期、特にエルサレム旧市街には立ち入らないようにと海外危険情報で「注意」を呼びかけていました。ところが、キリスト復活大聖堂内で、多くの日本人を見かけます。「地球の歩き方」を持っているのですぐ分かります。

イスラエルでの危険の内容は「巻き添え」です。イスラエル軍の銃撃、砲撃、爆撃とパレステイナ側の銃撃、自爆テロ、爆弾テロ等によるものです。この四年、巡礼団がイスラエル軍から、また、パレステイナテロリストから攻撃の対象となったことはありません。ベテランのガイドはイスラエル、パレステイナ双方に友人を持っているので、そのつど、危険情報を集め、状況判断しながら、案内しています。問題は個人旅行者です。

個人旅行者でも、日本を出て、二週間程度の人はそれなりに危険情報を承知しての旅行ですが、日本を離れて数ヶ月と言う「自分探しの旅」の人は、まったく、危険情報を気にしていません。私が、「こんな状況にもかかわらず、よく来たねー」と歓迎すると、「そんなですか」との返事が返ってきます。

これまで、こんな人たちが立ち寄りました。トルコ大地震があったときでした(1999年8月17日)。ひと月は経っていたと思います。当時の海外危険情報では、旅に出た子供と連絡が取れないと悲痛な親の叫びがありました。その頃、大地震のときトルコにいたと言う青年が来ました。親に連絡したかと尋ねたら、まだ、していませんとのことでした。

イスラエル軍がラマッラで軍事作戦中の頃です。ラマッラに行ってきたと言う青年が来ました。イスラエル側もパレステイナ側もチェックポイント通過では問題がなかったと話していました。断続的に戦闘状態となるガザに行ってきたと言う青年は何人もいます。

香田さんはイラクに渡る前、イスラエルでアルバイトしていたと言うから、キブッツで過ごしたのかもしれません。彼は彼なりにイラクに関する情報を収集していたのでしょう。夜行バスではビサ無でバクダットへ行けることを知っていたのですから。アンマンのホテルではイラク行きを思い止まるように諭されたとあります。しかし、行きました。

犯行グループは香田さんがイスラエルに滞在していたことを知りました。「イラク聖戦アルカイダ組織」にとって、恰好な人質でした。彼は「アメリカに協力する日本」人、「パレステイナ人を抑圧するイスラエル」滞在者で、処刑されて、然るべき者とみなされました。しかも、処刑された後でも、世界の、特に、日本の世論を揺さぶることが出来るのです。

香田さんは、同じアラブ人社会のパレステイナとイラクとの区別が出来ませんでした。パレステイナのアラブ人は非常に友好的です。日本はそれなりにパレステイナ側に立ち、学校、病院、文化施設等のインフラ整備で協力しています。イスラエルとはある距離をとっています。それに、イスラエルでの危険は「巻き添え」です。しかし、イラクでは「日本人」外交官、報道関係者が殺害され、NGO活動家が拘束されました。それに、最近では、多くの人質が躊躇なく、殺害されています。これらの事件が起きている国を「見に行く」ことは自分もその毒牙にかかる可能性があることに気付いて欲しかったです。

そして、このような事件の結果として、海外危険情報の最高度、「退避」勧告では邦人の保護が十分出来ない。旅券法を改正し、国民として義務を負う、法的「渡航禁止」にすべきだとの議論が起こりました。心情的には理解できても、今の旅券法を改正すべきではありません。個人的には改正されれば困ります。

昨年、イラク戦争のとき、退避勧告を受けました。二度とそのようなことはないと思います。しかし。かりに、退避勧告が出たとしても、踏みとどまります。この地での職務遂行にはそれだけの価値があるのです。

同じように、退避勧告地区であっても、在留し、あるいは渡航し、宗教的、職業的、文化的使命に生きようとする人は跡を絶たないと思います。「自己責任」の徹底でこの種の問題に対処すべきです。