分離の壁

2月1日

アンジェロ 春山 勝美 神父
Fr.Angelo Haruyama Katsumi, OFM
haruyama@netvision.net.il

1月29日、エルサレムで出勤時間帯、路線バスが自爆テロに遭いました。11人が死亡、50人を越える負傷者が出ました。(30日、死者11人と報道されました。肉切れになっていたので確認が遅れたとのことです。イスラエルでは自爆者は死者の数に加えません。)。路線バスでの自爆テロは昨年の10月以来です。現場はイスラエル首相官邸近くでした。また、この辺りは散歩かたがた、ショッピングセンターに買い物に行く道筋です。ですから、数日前、通ったばかりです。

テロに遭ったバス19番はアインカレムのハダッサ総合病院と市内を結ぶ路線バスで、ショッピングセンターまでの約一時間、狭い道で何台かとすれ違います。テロリストにはイスラエル市民を殺す理由があるのでしょうが、仮に私が巻き添えに遭ったとしたら、私の被災も彼らが望んだところなのでしょうか。

即日、自爆者がベトレヘムのパレステイナ警察幹部と特定できたので、直ちに、イスラエル軍はベトレヘムに侵攻し、自爆者が住んでいた家屋を破壊し、共犯者の捜索を続けています。

二三日前、ベトレヘムから、毎日、仕事に来るアラブ人に尋ねたことがあります。ベトレヘムに構築中の「安全の壁」に就いてです。彼の家、300メートル先に電気が通る分離壁が出来たと言っていました。これが完成すると、検問所が閉鎖された場合、エルサレムへの出入りが出来なくなります。これまで、何回かベトレヘムは封鎖されました。しかし、土地勘のある住民は抜け道を知り、時間はかかっても、エルサレムへ通っていました。これが不可能となるのです。

ベトレヘムにはサレジオ会の神学院があります。またここにはワイナリもあります。私たちのミサ用のワイン、食事用のワインはここから仕入れています。このサレジオ会の敷地はイスラエル側とパレステイナ側とに広がっています。分離壁が築かれて敷地が分割されたのかどうか、まだ聞いていません。分離壁構築が現実化していく今日この頃、各地でこのような問題が顕在化しています。

オリーブ山の東に、ベトファゲがあり、ベタニアがあります。このあたりはアブ・デイス(Abu Dis)です。ここには、7,8メートルのコンクリート壁が構築中です。アラブ・イスラム教徒がエルサレムに出入りすることを完全に管理するためのものです。

2000年秋、インテイファダ(占領地解放闘争)が始まり、テロでイスラエル市民の死傷者が増えるにつれ、テロリストの侵入を防ぐため防御壁構築の世論が起こりました。そのころの野党指導者、現シャロン首相は入植地が切り捨てられると反対でした。その後、治まらないテロでイスラエル国民は和平・協調路線をとる労働党に見切りをつけ、力での押さえ込みを主張するリクードを選びました。

イスラエルでは第一党になっても、連立を組まなければ政権維持が出来ません。シャロンは挙国一致内閣で国難に立ち向かいましたが、財政問題で労働党が離れ、右翼政党との関係が強まりました。そして昨年、700キロを越える分離壁構築が始まりました。問題の一つは、分離壁が入植地を取り込んだため、オスロ協定で承認されたパレステイナ国家の領域が侵される事です。その二は、住民の生活が分断されることです。アラブ諸国は国連の決議に基づき、「分離壁」が人道の罪に当たると国際司法裁判所に提訴しました。この審理がまもなく始まります。

このような状況で、1月末、世界のメデイアがこの問題を取上げました。The Jerusalem Postからです。「エルサレム67年以来の劇的変化」このような見出しがありました。イスラエルは東エルサレム併合以来、住民にイスラエル永住権を与えています。それで、パレステイナ暫定自治区を構成するエリコやベトレヘムの住民とは違ってイスラエル市民に準ずる扱いを受けています。

たとえば、年金、児童手当の受給です。月末の支給日になると、郵便局に受給者が押し寄せ、入場制限をします。昨年末は、郵便職員が正午で業務放棄の時限ストライキに入ったため、午前11時で入場停止となりました。二日三日と列が出来ていました。私は私書箱の鍵を示して入れてもらい、郵便物を取り出していました。この東エルサレムが分離壁で分割されるのです。職場、学校、病院は街内にあります。ベトレヘムの例のように、出入りが完全に管理されます。それで今、ヘンス内の家賃が沸騰しています。住民はヘンス内で生活したいのです。

イスラエルがなぜ「分離壁」をつくるか、1月31日付けのThe Jerusalem Postは以下の記事を掲載しました。

Foreign Ministry releases 'bloody' bus movie (記事の全文はここをクリック)
By TOVAH LAZAROFF
Graphic pictures of the latest terror attack that killed 10 is the best way to show why Israel needs a security fence to stop bombers, the Foreign Ministry said.